VOICE

「独響」という理想

2022年11月5日

新作「PISCES」の完成後リリースを終え、何かがずっと心の中で引っかかっていた。
何か割り切れないモヤモヤした気持ちは振り払おうと思えば思うほど纏わりつき気分を憂鬱にさせる。
きっとそれは自分の現状すべてに対しての疑問だったのではないかと思う。
作業部屋に篭りきって音楽を作っても何も変わらない気がしてならなかった。
今まで俺は音楽を作って人に何かを伝えている気でいたが、それだけじゃもうダメなんだと気づき始めていた。
もっと外へ向けてありったけのフィーリングを伝えなければ表現とは言えない気がした。
とりあえずライブをやろう!
どんなライブ?
今までのライブでは自分の楽曲の中から独奏で表現可能な曲を選びただひたすら良い演奏を心がけ、ストイックさばかりが目立つライブだった。
シーンと静まり返った会場に痛いほどの視線と気配だけが自分に向けられ物音一つ憚られる中、1音1音爪弾く響きに全神経を研ぎ澄ます。
そのスタイルをこれからもずっと続けられるのか?
と自分に問えばそれはNOだ。
ならばどうする?
インプロビゼーション(即興演奏)でライブをやろう!
今までそういうライブをやったことはあるが、それは誰かとセッションするだけの期待ばかりが先走った
ものばかりでいつもお互いの思惑がすれ違い虚しさが残ることが多かった。
ソロならばすべてが自由で表現の幅も楽曲を演奏するときと比べ格段に広がるだろう。
音量、タイミング、展開、静寂、などすべてをコントロールできる。
何の準備も気構えも必要ない、ただ自分の響きに身を委ね心が動き出せば物語は綴られるだろう。
しかしそれは理想イメージであって必ずそうなるわけではないし簡単なことではないはずだが試すだけの価値は
あると確信があった。
そう思い立ったが吉日、すぐに会場をおさえ計6本のライブをブッキングした。
ライブまでの約1ヶ月の猶予の中で自分のイメージするライブを模索する日々が始まった。
それと同時にそれに触発され新たなレコーディングも開始する。
ライブが決まったことで脳が活性化されていくのが音の響きでわかる。
改めて自分が持っている機材を吟味し、思いつくことは何でも試し自分の中で響いている音と実際の音が一つになるように何通りものセットを試す。
イメージが閃く瞬間にそれを逃さず実行できる瞬発力と操作力を身につけるために何度も何度もいろんな
パターンで演奏してみる。
それを身につければいつでもフレッシュな気分で演奏できるし観る側は音楽が生まれる瞬間を体験することになる。
あと必要なものはといえば頭の中を空っぽにして自分を解放することだけ。
そうすれば何かしらそこに世界が誕生して言葉にはできない何かを伝えられると思う。

車に機材を積み込み今住んでいる場所から東京へ向けて音楽の旅に出た。
1年ぶりのライブというのもあってか1、2本までは上手く会場の空気を掴むことができなかったが3本目の
ライブで自分がイメージする流れにかなり近づけた。
それが自信になったのかそれからのライブでは最初に放つ音から最後の1音の響きまで心と一つになり、観客と
同じ世界を共有している実感を得た。
今まで微動だにしなかった観客の身体がリズムに乗って揺れ始めた。
それは長い間、試行錯誤して求めてきたものの一つだった。
この旅に出る時ある友人に「この旅で何か掴んでくる」と言って旅立った。
それが現実となった。
この「独響」という理想が生んだ自分のスタイルはここから始まりこの先まだまだ続く。
何処まで行けるかご期待あれ。