VOICE

消滅した時間

2021年5月29日

緊急事態宣言により予定していたライブが延期となり、張り詰めていた気持ちも
ヘナヘナと萎えてしまった翌日、暇を持て余し本屋へ行った。
最近、本を読むペースが早くなったのか気づくと読む本がなかったりするので
気になる本はなるべく買い溜めすることにしている。

この時は特に買うつもりもなく何となく店内を物色していると棚にびっしりと並ぶ中、
1冊の本に目が吸い寄せられる。
写真家”奈良原一高”エッセイ集「太陽の肖像」。

Blankey Jet Cityデビュー当初1991年頃、あるフアンの方からプレゼントされた
写真集が奈良原一高「消滅した時間」だった。
それは今でも手元に在り、気が向いた時に眺めている。
1970〜1974年のアメリカの風景を芸術的な視点で撮られたモノクロ写真集。
幾つもの稲光が走る荒野、誰もいないドライブインシアター、車中に広がる風景、など
どれも印象的で想像力を掻き立てられる写真集だ。
確か手紙も添えられていて”きっと俺の好きな世界だから”といったようなことが
書かれていたと記憶する。
当時の値段で¥9、800だから高価なプレゼントだ。
確か女性の方だったと思うが今ではそれが誰だったのかわからない。

好きな人に贈り物を選ぶ時、まず自分が良いと思うものの中から相手に喜ばれる
ことを想像して選ぶだろう。
贈られたほうにもその気持ちは伝わるから。
きっと彼女はこの写真集に感動し、その気持ちを共有できるであろう相手に俺を
選び贈ったのではないかと思う。
自分が美しいと感じるものを共感できる人がいたら嬉しいからね。
ただ当時の俺はそれほど写真やアートに関心があったわけでもなかったので、
彼女の気持ちを共有できたのかは怪しいが。
そんな俺に何かしらの美意識を彼女が見出してくれたのは嬉しい。
今その当時を振り返ってみてもこのプレゼントは今現在の俺のを予知していたかのように過去と未来を繋げている特別な贈り物だ。
この写真集をプレゼントしてくれた女性は現在の俺を知っているだろうか?
俺の音を聴いてくれているだろうか?

昔、貴方が贈ってくれたプレゼントは今も俺を刺激し続け影響をもたらしていますと
伝えたい。